2018年1月2日火曜日

Hommage à Jean-François Izarn

偉大なワインとの出会いはそうそう簡単ではない。味わいを通じて深く心と記憶に刻まれる特別な体験である。その味わいが極上であればあるほど記憶が深層心理の深いところに刻まれて一生に何度かの格別な体験となって自分の中に残る貴重なものになる。

この体験は自分の中にしかなく人に見せることも体験させることもできない。特に味覚での体験は人ぞれぞれ琴線が異なる故、自分だけの特別な体験でしかないわけです。今まで何度かこの体験を繰り返してきましたがそれらは今でも私の心に深く記憶されており特別な贈り物のように大事に保管されています。私の場合これらは最も大事でこの世でいただける価値ある財産であるように思います。

2018年、年明け早々にまた一つ大事な贈り物をいただきました。味覚を通じ心に響き渡り全身に廻る喜びと幸せを十二分に味わえた格別な一本でした。清らかで磨かれた曇りのない味わいと瓶の中で熟成、成長して現れる豊かな風味と見事なバランス。まさに脱帽です。

ワインを作ったのは故・ジャン・フランソワ・イザーン(Jean-François Izarn)。ラングドック、サン・シニアンのコーセス・エ・ヴェイラン村で1990年からワイン作りを行っていました。1998年にはビオの認証を受けたラングドックの自然派のはしりのような蔵元です。

当主であったジャン・フランソワは自然児を絵に書いたような人で無邪気で多趣味な愛すべくキャラクターの持ち主でした。ワイン作りはもちろんですが腕のいい料理人でもありアーティスト、写真家、画家、盆栽の患者崇拝者などの多才な顔を持っていました。私も渡仏するたびに蔵を訪れ彼の美味しい家庭料理とワインをご馳走になりました。本当に美味しく楽しい時間を過ごさせてもらいました。

2014年5月、畑の世話をしていた際にトラクターの事故で亡くなってしまいました。享年58歳。ワインを作り始めて20年、これから最も個性が際立つ世代に入ってからの悲報に大切なものを失った喪失感を皆が抱いたことは言うまでもありません。2013年のワインが彼の遺作となりました。現在は奥様のカティと娘のカミーユがジャン・フランソワの意志を継いでワイン作りを続けています。

しかし同じ畑、同じ作り方でワインを醸造するのですがそこにはジャン・フランソワの理想とするワインへの思いというエッセンスは残念ながら含まれておらず出来上がるワインは似て非なるものであるわけです。それが悪いわけではなくワインとはそうゆうものであるわけです。現在ワインを作っている人の思いやエッセンスが入ればそれはそれで特別な味わいになるはずでそれはジャン・フランソワと違うものでいいわけです。

2018年年頭にこの素晴らしいワインをしみじみと味わえたことで私にとっての大切な財産が一つ増えたことと亡き作り手を思い起こさせてくれた大切な経験となりました。ワインは飲んでしまえば確実にこの世から無くなるわけですがそのワインを飲むことでそこに詰まった「思い」やその人の「エッセンス」は飲んだ側の経験として私の心に永遠と残ります。何とも儚く、愛おしいものなのでしょうか。ジャン・フランソワが生きていれば間違いなくラングドックを代表する偉大な生産者としての地位を確立していたと思います。しかし今は亡くともあなたのワインによって私のように一人ひとりの心に「偉大な生産者」として記憶されていくはずです。

Hommage à Jean-François Izarn
偉大な造り手ジャン・フランソワ・イザーンに捧ぐ

2018,1,1

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